処女厨という存在を進化論的に考察してみた

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1 はじめに

 処女だかそうでないかは時に大きな話題を呼ぶ。
 なぜ大きな話題になるかというと、それを気にする人がいるからである。
 参考文献の[1]によると、
 様々な文化圏で男女が配偶者に求めるものを調べた研究の一部に、
 多くの集団で、男性は配偶者に「処女であること」を求める、
 ということが記されているそうだ。(実物は読んでない)
 つまり、処女性を重要視する男性(以下処女厨*1 )が
 結構な割合で存在することは事実。
 なぜ処女厨が存在するのか原因があるはずだ。
 生物的なことならば、それは進化の結果だと結び付けられるだろう。
 今回は、それを見ていきたい。

 進化論は趣味で嗜む程度なので間違いがあるかもしれない。
 その場合はどんどん指摘してほしい。

2 進化とは

 進化と進歩はイコールではない。
 多くの子孫を残せた個体の様々な形質が進化とされているだけ。
 様々な意味での周辺環境(天候、天敵、などなど)中で生き残った結果、
 淘汰された結果を進化と呼ぶ。

 様々な性質(遺伝子とか文化とか)の内、ある性質をもつ個体群(A)がある
 →変異で生じた、Aより生き残りやすくなる性質を持つ個体群(B)が生まれる
 →AはBより生き残る率が大きい
 →AはBより一個体当たり多く子供を作れる
 →次の世代へ
 →Aが集団内で増えている
 →更に何代か先の世代へ
 →集団内でBが少なくなりAが広まる
 →Bが消滅しAだけになる

 淘汰された結果、Aが残った。
 A、Bをそれぞれ一つの種として見ると、
 時代が進んでB→Aと種が変化したことになる。
 これが進化である。
 AよりBが生き残りやすいような別の環境では
 Aの代わりにBが残る進化になるだろうし、
 とんでもない事態が発生すればこの種が絶滅して、
 それまでの進化もなかったことにもなるだろう。

 その時の周囲環境において「自分の性質の数を増やす」点で
 有利に立つこと、それが進化である。
 そのために生物は自分の遺伝子をより多く残せるように行動する。
 ほぼ最適化されているといってもよいかもしれない。
 長い年月の間に、そう行動させる遺伝子が
 そうさせない遺伝子を駆逐してしまったからだ。

3 男女の性差、生殖編

 文献[2]のp224〜263に詳しく載っている。

 男女の一番の差は配偶子(精子とか卵子とか)の差にある。
 小さくて多い配偶子を持つのを雄として
 大きくて少ない方を持つのが雌とすれば
 他の全ての性差も説明できるだろう。

 雌は配偶子に大きなエネルギーや時間を割く(投資する)
 という戦略を取っていると解釈できる。
 そしてそのまま子を孕み、産み、育てる傾向が強い。
 特に哺乳類では、雌が雄より多くの投資を子供に行う種が多いのだ。

4 男女の性差、戦略編

 ここで先の二節をまとめよう。
 「進化により生物は自分の遺伝子をより多く残そうとする」
 「哺乳類の雌は雄より子育てに大きな投資を必要としがちである」


 この辺りで話を哺乳類に限定する。
 本来の目的はヒトに関するものだからだ。
 殆どの哺乳類は雌が妊娠し
 両親の少なくとも片方は子育てを行う。

 ここで、雄の進化を考えよう。
 雌と異なり雄は妊娠せず生殖後も自由に行動できる。
 なので、より多くの雌と生殖行動を行おうとする進化が起きる。
 その方が多くの遺伝子を残せるだろう。

 では雌はどのように進化するのか?
 雌にとって、子育てに必要な投資が少なくなれば、
 次の子供を産むために割ける投資が増えるので
 より多くの子孫を残せる可能性が大きくなるだろう。
 つまり、投資をより少なくする方向、
 子の養育に必要な投資の一部または全てを、
 他の個体に行わせる方向へ雌は進化していくはずだ。

 そう、雌雄どちらも投資は他の個体に任せたいのである。
 その方がより多くの生殖機会を持てるのだから。
 しかし、そう簡単にはいかない。
 ここで少し、視線を子供に向けてみよう。
 より多く投資を受けた子供の方が生存確率は上がる
 ということは納得できるだろう。
 そう、上記の子育てを押し付けあってばかりの大きな集団に
 子育てをしっかりと行う小さな集団が入り込んだ場合、
 後者の方が一個体あたりでより多くの子供を残せるのだ。

 だが逆に、子育てをパートナーに押し付ける小さな集団が
 面倒見がよい大きな集団の中に入り込んだ場合は
 結果が逆転し、前者が一個体あたりより多くの子供を残せる。
 生殖行動を数多くこなせる上に
 相手が子育てをキチンと行う可能性が高いからだ。

 多くの場合、子孫を多く作れるかどうかは
 周囲の個体が取る戦略、という環境に左右されるのである。
 実際は、各々の個体はこれらの戦略を
 時期により転換して用いたりとより一層複雑な戦略を採り得る。
 つまり、子育てをする・しないを決定するそれぞれ遺伝子は
 多かれ少なかれどの個体も持っているはずである。

5 雌雄間の駆け引き

 前節では導いたことから、以下のように言える。

 生物は、子育ての投資を少しでも
 相手に負担させたがる傾向を
 多かれ少なかれ、雌雄問わず持っている。


 このことから、前節の戦略というものを
 もう一歩進んで考えてみる。

 まず、雌はどうするか。
 生殖行動前により多くの投資を行ってくれる雄を見分け
 (例えばより立派な巣を作るという競争を行わせ、
 多大な投資を強いて後に退けなくさせる)
 られるように、また
 妊娠後に雄が逃げても別の雄に自分の子供だと思わせ
 子育てさせられるよう進化する。

 そして雄は、それを避けられるよう進化するだろう。
 なるべく少ないコストで雌を妊娠させられるように
 自分以外の子供を妊娠している雌を見分けられるように進化する。
 より多く自分の遺伝子を後世に残せるように行動するからだ。

6 処女性が重要視される理由 遺伝子編

 さて、ここからが本題である。
 前節で述べたように
 雄は、既に妊娠中の雌を配偶者に選ぶことを
 避けるような進化を遂げている筈だ。
 非処女の場合、子供ができても
 雄は自分の子供と確信することが難しい。
 そして、実際に自分の子供ではない個体を
 育て上げてしまうこともあるだろう。

 この点でヒトは特別である。
 発情期が無く女性の排卵が隠蔽されているので
 いつ妊娠したのか非常に分かりにくい。
 女性が子育て戦略上かなり有利に立っているといえるだろう。

 男性は女性のそばにずっと身を置いておかなければ
 子供が自分の遺伝子を持っているのかを判別することが難しい。
 ずっとそばにいても、自分がその女性と出会う前に
 すでに妊娠しているという可能性を捨てきれない時もある。
 自分の遺伝子を持っていない子供を育ててしまうこともあるだろう。
 その点、相手が処女ならば全く問題はない。
 自分以外の子供を妊娠している可能性は全くないからだ。
 処女である女性をパートナーに選べば、
 ほぼ確実に自分の遺伝子を残すことができるのだ。

 処女を見分けられ、その女性と生殖できる男性の方が
 そうでない男性より多くの遺伝子を残せる。
 処女を好み非処女を嫌うという遺伝子がより多く残っているはずである。

7 処女性が重要視される理由 文化編

 進化とは遺伝子だけでなく、文化にも適用できる。
 文献[2]のp301-321では「模倣」に相当するギリシャ語から
 「ミ−ム」という単語が作られ、用いられている。
 人々に受け入れられる文化は模倣され広がっていくというのだ。

 ヒトの場合、行動の原因は
 遺伝子だけでなくミームによる影響も大きい。
 他の動物でもミームの影響はあるが
 ヒトの場合は言語により
 高度なミームも高速で伝播し
 より大きく影響する。

 では処女厨ミームの影響を
 受けているのかを考えてみよう。

 ヒトは子供を育て上げるのに必要な投資量が多い。
 また、共同体を作るので多人数で子育てを行う。
 そうすると、男性はより自分と子供との血縁関係に
 確証を持ちたいだろう。

 文献[1]p172-173では
 男性の投資が大きい集団の場合は
 結婚相手は自分でなく親が決めたり
 男性が配偶者の性行動などを
 監督下におく(貞操帯など)傾向が
 各地で見られるらしい。
 そのため、生殖能力が高く、
 確実に血筋を引いた子供を産める
 若く処女が配偶者に
 選ばれやすくなるはずである。
 家族・血脈というものが
 重んじられやすいために
 こうしたミームが広まっていったと
 考えられるだろう。

 こういった風習は、
 男性の投資量が多くなる
 家父長制度が強い程よくみられるらしい。
 投資を無駄にしないミームが残るのは道理だろう。
 日本も戦前は完全な家父長制であった。
 日本人は処女を重んじるミームの影響下にあるのだ。
 現在は女性の社会進出が珍しくないので
 以前ほどではなくなったがまだその傾向は残っている。

8 まとめ

 遺伝子・文化両方の面で
 処女厨は生じるものということが分かった。

 また、近年の女性の社会進出により
 処女を重んじる文化も薄れつつある。

 遺伝子は100年ほどでは進化が起きないので
 それによる影響は変わらないだろう。
 よって女性の社会進出の機会がより増えれば
 処女厨の数は減っていくだろうし
 現状を維持すれば処女厨の数もそのままだろう。
 しかし、女性の社会進出も
 急激に進むようなものではない。
 まだしばらくは処女厨という
 言葉が残るのは確実である。

9 参考文献

 1. 長谷川眞理子長谷川寿一 著 「進化と人間行動」 財団法人放送大学教育振興会 (2007)
 2. リチャード・ドーキンス 著 日高敏隆、岸由二、羽田節子、垂水雄二 訳 「利己的な遺伝子 増補改題『生物=生存機械論』」 紀伊國屋書店 (1991)

10 おわりに

 長くなっちゃったけどネタだからいいよね(謎)
 『利己的な遺伝子』は名著だからオススメ。

*1:他意は無く、打鍵しやすいのでこの語を選んだ。ちなみに私も処女厨である。