『境界線上のホライゾン』が面白い

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1 まとめ

 境界線上のホライゾンイチオシです!

2 はじめに

 いやぁ、2008年下半期ライトノベルサイト杯、結果が楽しみですね(挨拶)
 今回は私も投票する側で参加してみようかと。
 最近ようやく『銀河英雄伝説』を読んで楽しんだりしてましたが
 (投票コード【08下期ラノベ投票/既存/9784488725129】)
 やはり一番お気に入りの作家さん、川上稔氏の
 最新作境界線上のホライゾンに投票するついでに
 (投票コード【08下期ラノベ投票/新規/9784048672702】)
 それに対する想いでも書きつけておこうかと。
 大ファンですからね。

3 読者に優しい設計になった

 巻頭に人物紹介用語集作品世界の歴史があります。
 それがあるためか、イキナリのっけから
 大人数が出てきて造語を使いまくる。
 それらの説明を省くで物語のテンポが良いと感じました。
 前作序盤は説明過多で読み辛い!
 →では本編前に付録として入れますね

 という解決策なのかもしれません。
 分からなくなったら見返せばよいのですし、
 読み返さずにすむ分、とにかく読みやすくなりました。
 初めての人にも安心して勧められます。
 中身も気に入ってくれること請け合いのものになってます。

4 ごちゃまぜ

  • 戦国時代
  • 西洋風ファンタジー
  • RPG
  • メカ・人型ロボット
  • 学園物
  • バトルアクション

 これらの人気あるジャンルを
 全部詰め込んでいる段階で既に無茶。
 でも、それができるからついていくんですけどね。
 この辺を少し見ていきましょう。

4-1 戦国時代と三十年戦争

 戦国時代は言わずもがな。
 日本史で最も人気がある時代と言ってもいいでしょう。
 三十年戦争は中世が終わって少し経った近世初期。
 1618-1648年の出来事。
 前者は日本での天下統一動乱
 後者は欧州での最初の国際戦争
 遥か未来の地球で人が唯一住める日本列島に
 世界各国が居ついるからさぁ大変。
 人々が意図的に歴史が再現するこの世界では
 それらを避けることはできない。
 東洋西洋の入り乱れる特大規模の戦いが主人公たちを待ち受けている!

4-2 日本人みんな大好きRPG

 私も大好きRPG
 そもそも、この作品世界GENESIS
 氏が過去に作ったTRPGのシステムだったということもあり
 (参照:氏の日記のこの日この日
 RPG的要素がふんだんに仕込まれていました。

 特殊な能力の使用にはエネルギー(のようなもの)を消費したり
 ( 矢に「追尾」と「障害避け」の性能を付加するには
   八ある容量を一ずつ消費、とか。
 )

 仲間たちがクラスやらジョブやらの
 見慣れた役割を担っていたり
 ( 忍者・カラテカ・半竜・商人
   黒魔術師・白魔術師・侍、などなど。
   中には「壁」に徹して味方を守る者まで!
 )

 と、なかなかにゲームチック。
 こういうのワクワクしませんか? しませんか……。

4-3 メカはロマン


 強さの象徴、それが巨大人型ロボット! たくさん出るよ!
 飛んだり跳ねたり、よく動くしすごく強いよ!

 テクノロジーの結晶、空中都市艦! 十万もの人が住んでる!
 建造スケールの大きさは圧巻!

 見果てぬロマン、人間大ロボット! しかもメイドロボだよ!
 食いつかないわけにはいかない……!


4-4 学生の特権

 同級生たちと一致団結し、何かに向けて
 活動するのはとってもとっても楽しい。
 文化祭しかり、体育祭しかり、修学旅行しかり。
 境界線上のホライゾンでは、ただそれが
 「好きな女を救うために世界に喧嘩売る」に置き換わっただけ。
 大人たちによる押さえつけや
 仲間との対立やなどの壁も立ちはだかるが
 それらを乗り越えて、自分たちがやりたい事を貫き通す!
 いやぁ、青春してるなあ。

4-5 アクション!

 上に挙げた全部の要素を巧みに使って
 繰り広げられる戦いアクション
 最後なんか200ページ以上の戦闘シーンがあるけど
 そんな長さは全く感じられない。
 体感時間ではあっという間。
 爽快かつ疾走感あふれる、手に汗握る展開をお届け!

5 こんな具合で

 上に挙げたものはどれも私の嗜好に合っているものばかり。
 それらがギュッっと詰まってるんだからテンション上がりっぱなし。
 そういうジャンル的でなく気に入ってる部分も
 もちろんたくさんあります。
 この作品で私が好きな部分を少々。

6 涙あり笑いありお色気あり


 感動の場面もあり泣かせてくれる。
 さすがはベテランの技巧。

 と思いきや余韻に浸る間もなく
 ギャグをぶつけてきたりもする。
 氏のギャグセンスはアッパーというかアチョーというか。
 予測不能の方向から現れて防御不能だったり逆にベッタベタだったり
 と随所に多様性あふれる笑いをもたらしてくれる
 他にもエロ系のギャグが前作より質・量ともに増加。

 それに関連してかサービスシーンもけっこうな数。
 さとやすさんの絵と未来系デザインが複合して
 制服からし公共の場で広げられないレベル
 表紙で既にかなりキテるけど
 本編ではあんなことからそんなことまで……!


7 人が生活している

 主人公たちの生活圏かつ本拠地である航空都市艦・武蔵
 モブの住民たちの様子も多く描かれ、物語を支えている。
 また、政治や経済、歴史や宗教の説得力ある話も絡み、主人公の周り以外でも
 きちんと人々がそこにいて生活しているのだ、と感じさせてくれる。
 世界設定に深みが出て、作品の世界に浸りやすくなってる。

8 複雑なギミックと難解な謎


 相変わらず膨大で緻密な世界設定を持つ作品です。
 その設定の中で可能な限りのことを限界までやり尽くすという
 氏お得意の脳汁湧きでまくり展開が始まります。

 上巻ではこの世界で行えることの多様さと膨大さを提示され
 かなりの謎がばら撒かれました
 下巻では敵味方の奇想天外な能力も続々と判明していき
 「これまで以上になんでもあり」ということが更に感じられます。
 しかし謎は増えるばかりで
 これからの展開が気になって仕方がありません。

 氏は最後までプロットを作ってから作品に取り掛かるので
 (『境界線上のホライゾン』の展開はもう既に最後まで決定しているはずで)
 全ての伏線は絶対に回収されるはずです。
 これからどれほど予想を超えるものが現れるのか、とても楽しみです。

 

9 主人公が魅力的


 名実ともに一番ダメな学生、"不可能男"トーリ君
 文武ともに優れたものを何一つ持っていない。
 でもそれだけに自分だけでは何もできないことを知っており
 周りのみんなにに頼ることができるので
 決して独りよがりにはならない。

 彼は一見、かなりのバカに見えるけど
 人の気持ちを考えてるし
 他のみんなが知らないようなことまで
 その人の良いところをキチンと知っている。
 そしていつでも、自分の主張を揺るがせない。
 本当はそんな好人物なのである。
 いつのまにか私も読んでいて応援したくなっていた
 これがこの作品の一番のお気に入り部分でもあります。


10 最後に

 終わりのクロニクルの終盤を越えるテンコ盛りは
 流石にもう出ないんじゃないかな。
 と思ってたのに……見事にやってくれた!

 人! 異族! 巨大ロボ! 航空戦艦!
 歴史ネタ! 経済ネタ! 宗教ネタ! 政治ネタ!
 戦国天下統一合戦! ヨーロッパ三十年戦争
 (中略)
 多彩な人物! あふれる造語!
 大きいものから小さいものまで!
 学生たちが突っ走る! 大人も走る!
 作者も全力! 読者も全力!
 コレこそ正に! 川上稔の最前線!

 ──『境界線上のホライゾン』──